厚労科研奥村班 ミッション

ミッション

研究を支える三種の人材
研究を支える三種の人材

技術革新が進む人工知能技術の医療応用が期待されています。しかし、医療用人工知能の研究開発にはさまざまな障害があり、制度的な支援策も限定的なものとなっています。そうした問題のひとつが、医療用人工知能の研究開発に関わる人材育成策です。

人工知能分野の人材育成と言うと、その対象としてまず機械学習の基礎研究者や機械学習の医療応用に関する研究者が思い起こされるかもしれません。しかし、この分野の研究人材は、既存の教育機関が積極的に育成していることに加え、文部科学省による支援策なども既に講じられています。また、周辺領域の人材を対象とした自習環境も充実しており、こうした人材の育成策は充実しつつあります。一方、研究に必要不可欠でありながら育成支援策が不足している人材があります。それは医療用人工知能研究を「支える人材」です。そこで私達は研究を支える人材の育成策に目を向けることにしました。

このプロジェクトでは、医療用人工知能を支える人材を大きく「研究開発や導入の意志決定に関与する人材」「研究の多様性を高める人材」「研究の生産性を高める人材」の3つに分けました。この三種の人材は人工知能研究に大きな影響を与える人材であるにもかかわらず、十分な育成策が講じられておらず、常に不足している状態です。既にそれによる弊害も出るようになっており、研究を「支える人材」の育成は急務となっています。そこで、私達はそれぞれ効率的な育成プログラムを策定することで、研究分野の発展を促進することを目指しました。

こうした研究を「支える人材」を充実させることにより、医療用人工知能の研究開発と普及が促進され、コストが低廉化され、医療用情報技術に多彩な技術革新がもたらされるはずです。その上で、大幅な技術進歩を果たした情報技術の恩恵を、多くの困難を抱えた我が国の医療と医療現場に役立てていくための基礎となるでしょう。

研究を支える三種の人材育成

医療用人工知能の研究は研究者達の力だけで成し得るものではありません。研究を支える人材がいて、初めて医療用人工知能の研究開発は前に進むのです。私達はこうした研究を支える人材として以下の3種を想定し、その育成策について提案していきます。

三種の人材育成と対象となる人材
三種の人材育成と対象となる人材

医療用人工知能の研究開発や導入の意志決定に関与する人材育成

医療用人工知能の研究開発に際しては、各医療機関の研究開発への参加や学会レベルでの大規模スタディの実現等において、各組織の長や学会幹部の理解が不可欠です。しかし、これら意思決定に関与する人材を対象とした教材は存在せず、プロジェクト毎に教材を作成する形になっており、これは研究者にとって大きな負担となっています。

また、我が国では医療機器に対して厳しい品質管理が課されており、同様の規制が医療用人工知能 にも規制が適用されます。しかし、我々の政策研究により、この状況が今後の研究開発競争において米国・中国と比して著しい制約となることが示唆されています。スタンフォード大学のレポート(https://ai100.stanford.edu/2016-report)でも、政府機関における人材育成の必要性が提言されており、人工知能技術に精通した意思決定者の人材育成が世界的に見ても必要不可欠なものとして注目されるようになりました。

「医療機関・学会幹部」「政府機関の政策担当者」に対する学習プログラム開発・教材作成・啓発活動などを進めていきます。こうした「研究成果の社会実装を支える意思決定者」の育成は、国・自治体・医療機関レベルでの医療用人工知能の普及・発展を促進し、医療現場をより良く変えていくことに繋げていきます。

研究の多様性を高める人材育成

医療用人工知能に関する研究は既に類似研究の山となっています。国による研究助成もディープラーニングによる画像認識研究が多く、多様性が損なわれているのが現状です。こうした画像認識処理には性能限界があるため、その後を見据えた研究の多様化が不可欠です。たとえば、質の高い「スモールデータ」を活用する試みや、カルテ等医療文書を対象とした自然言語処理技術の発展等が望まれます。そこで、様々な職種の専門家を対象とした医療用人工知能の啓発と研究の多様化に資する教育プログラムを策定します。

そのためには現場側からのアイディアや意見を取り入れていくことが重要であり、一方的な情報提供は必ずしも教育効果を示しません。十分なヒアリングを行った上で、各々の事情に即した支援策が必要です。そこで、学会シンポジウム等を通じた相互理解の醸成や各分野において影響力のある指導層を対象に絞った「インフルエンサー・マーケティング」手法の適用を検討します。

本プロジェクトでは「医療経済学」「公衆衛生」「歯科医療」「健康危機管理」「プライマリ・ケア」について焦点を当て、医療用人工知能の影響やその活用について情報交換を進めます。これにより、医療用人工知能について理解を深めた「意義のある応用分野の発見と有用性の向上に欠かせない橋渡し人材」を育成し、医療用人工知能研究の多様化を促し、持続的な研究開発へと繋げていきます。

研究の生産性を高める人材育成

医療用人工知能の研究開発には、学習や評価に要するデータ生成に際して、医療従事者の協力による膨大な単純作業が求められます。このためには研究協力者である医療従事者に「そもそも医療用人工知能 とは何か」「なぜ単純作業が必要なのか」を理解して貰う必要がありますが、そのための手段が限られています。そして、その単純作業を訓練する手法も各チームの努力に負っているため、研究協力者に対する広報・教育・訓練のプロセスがそのまま研究チームの負担となっているのです。そのため、研究協力者を対象として研究の意義を広報し、実際の作業を訓練する場を設けることでこうした負担を軽減することができれば、医療用人工知能の研究効率は大きく向上します。

そこで、医療用人工知能 研究への協力者を対象に、研究支援の人材育成手法を開発します。研究コストを下げるうえで、私達が今までに進めてきた発展途上国の医療従事者の組織化手法を教材化し、ひいては「研究に求められる各種データを地道にかつ高品質で生成する協力者」の育成へと繋げ、各種研究開発の効率化と低廉化を目指します。

(このサイトは2017~2018年度に活動した研究班の成果物で、所属・肩書きは当時のものです)